2021 年 49 巻 6 号 p. 463-467
頚部を別にした2個の脳動脈瘤が体部で相接したものはkissing aneurysmsと称され,外科治療の困難さが報告されている.同一内頚動脈のkissing aneurysmsは内頚動脈後交通動脈分岐部(IC-PC)と前脈絡叢動脈分岐部とに発生するものが多いが,今回右IC-PCと右C2とに発生したまれな手術症例を経験したので報告する.症例は60歳,女性.もともと右内頚動脈瘤を指摘されていたが,10日前から頭痛があり,入院当日に近医を受診し,頭部CTでくも膜下出血を認めたため当院紹介となった.来院時,意識清明で神経脱落症状は認めなかった(Hunt & Kosnik Grade I,WFNS Grade I).3D-CTAにて右IC-PCに長径9mmの動脈瘤と右C2後面に径3mmの動脈瘤を認め,両者の動脈瘤は体部で相接しておりkissing aneurysmsが示唆された.右IC-PC動脈瘤が出血源と考えられ,開頭クリッピング術を施行した.頚部で右内頚動脈を確保して右前頭側頭開頭を行い,まず破裂した右IC-PC動脈瘤の処理を行い,次に未破裂の右C2動脈瘤の処理を行った.その際,動脈瘤体部の接合部は強固に癒着しており,慎重に剝離を行った.術後経過は良好で,神経脱落症状なく独歩退院された.kissing aneurysmsは,接合部の強固な癒着のために外科治療が困難とされているが,安全に手術を行うためには,術前の綿密な検討と,母血管近位部での一時遮断を併用した術中の丁寧な剝離操作が重要である.