2024 年 52 巻 2 号 p. 105-110
69歳女性が意識障害を主訴に救急搬送され,CTで脳内血腫を伴うFisher group 3のくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)を認めた.脳血管撮影(digital subtraction angiography:DSA)でanterior temporal artery(ATA)に紡錘状動脈瘤を認め,脳動脈瘤破裂によるSAHと診断し,当日にtrapping and resectionを施行した.紡錘状動脈瘤はおもに椎骨脳底動脈に好発し,原因としては脳動脈解離が多くを占める.ATAに紡錘状動脈瘤が生じることはまれであり,これまでに病理組織学的に脳動脈解離が否定され,動脈硬化性紡錘状動脈瘤と診断された報告はない.治療は直達手術が選択される傾向にあり,ATAに血行再建を併用した報告は少数であった.ATAは閉塞により重篤な神経障害は後遺しないとの報告もあるが,灌流域にはvariationがあり,DSAによる詳細な術前検討が必要である.ATAの紡錘状動脈瘤はまれではあるが,鑑別すべき疾患の1つである.特に良好な転帰が期待される症例では,治療時にATA灌流域の血流温存を考慮すべきであり,適切な治療を模索することは今後の課題である.