2011 年 10 巻 p. 15-31
英語を母語とする学習者による日本語の語レベルアクセントの習得を調査している先行研究では,標準語の直接的な影響と,学習者の中間言語と標準語の偶然の一致という二点を区別しているものは少ない.本研究では,イギリス英語を母語とする日本語学習者を対象に,経験の少ない学習者13名,経験の多い学習者8名が生成する2~3拍の独立名詞のアクセント型を音声学の専門知識のある日本語母語話者に判定させ,標準語のアクセント型との比較を行った.経験の少ない学習者と経験の多い学習者は,日本語の学習時間及び日本滞在期間の点で異なっていたが,資料語は学習者にとって馴染みがあると予測されるものを選定した.分析の結果,2拍名詞が有核で生成されるのか無核で生成されるのかは,どちらの学習者群においても,標準語のアクセント型とは無関係であるという結果となった.3拍名詞に関しては,標準語のアクセント型の影響はどちらの学習者群においても統計的に有意ではあるものの,標準語との一致は日本語の経験に関わらず高くなかった.この結果から,標準語の一致の大部分―2拍名詞の場合はその全て―は学習者の中間言語との偶然の一致の結果であるということが示唆され,また,英語を母語とする日本語学習者にとっては,ピッチを語の特徴として解釈することが困難であるという可能性が示唆される.