Second Language
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研究論文
中国人日本語学習者による日本語の過去形の習得について
―韻律構造移転の検証―
梅田 真理一瀬 陽子
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2011 年 10 巻 p. 51-77

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抄録

本研究では過去を表す形態素の習得について調査した。英語の習得において過去形「-ed」の脱落が多く報告されている(Lardiere, 1998a; 1998b; Hawkins & Liszka, 2003、他)。本研究はその研究結果に基づいて提唱された二つの仮説、Representational Deficit Hypothesis (RDH) (Hawkins, 2001; Hawkins & Liszka, 2003)とProsodic Transfer Hypothesis (PTH) (Goad, Steel & White, 2003; Goad & White, 2004; 2006)の信憑性について調査する。RDHによると、学習者の母語に含まれない素性は習得不可能であるとされる。従って、英語の「-ed」の脱落は[+past]の素性の習得が不可能であるため起こる、と主張されている。例えば、中国語はこの[+past]の素性が存在しない言語であるため、英語の過去形の習得が困難であるとされる(Hawkins & Liszka, 2003)。一方、PTHによると、英語の「-ed」の脱落は[+past]の素性の習得が不可能なためではなく、学習者の母語と第二言語の韻律構造(prosodic structure)の違いによるものだと主張されている。英語と中国語の例をとると、二つの言語は音律構造が異なっており、その結果過去形の「-ed」の脱落が起こる、とされている。この二つの仮説の信憑性を見極めるため、本研究では中国語話者における日本語の過去形の習得を調査した。日本語は英語と同様に[+past]の素性を持つため英語と類似しているが、日本語の韻律構造は中国語と同じである。従って、日本語は[+past]の素性を持つため、RDHによると、日本語の過去形「た」は英語の「-ed」と同様に困難であると予想される。一方、PTHによると、中国語と日本語の韻律構造は同一のため、中国語話者にとって日本語の過去形は英語と違い問題を引き起こさないと予想される。本研究では12人の中国語話者に対して実験を行った。実験結果によると、筆記テストと発話テストにおいて正確に過去形を産出することができる中国語話者がおり、結果はPTHを支持するものとなった。

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© 2011 日本第二言語習得学会
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