2022 年 20 巻 p. 29-45
本稿では, 日本とオーストラリアにて独自に構築された二種類の学習者コーパス(Japanese Learner Corpus of English Narratives(JaLCEN), WSU-Xi'an Jiaotong ESL Corpus)をもとに第二言語としての英語習得を検証した結果の一部を発表する.JaLCENでは口頭と筆記のナラティブタスク, WSU-Xi'an Jiaotong ESL Corpusでは様々な口頭・筆記タスクが用いられた.本研究では, JaLCENより日本で英語を学ぶ日本語母語話者88人とWSU-Xi'an Jiaotong ESL Corpusより日本語及び中国語母語話者51人の口頭データを用いて, 学習者の英文法習得について語彙マッピングの発達段階に焦点を当てて, Processability Theory(PT; Pienemann, 1998; Bettoni & Di Biase, 2015a)が提唱するLexical Mapping Hypothesisを枠組みとして分析する.二種類の学習者コーパスを用いて文法構造の出現を基準として分析した結果, 学習者の語彙マッピングの習得は, PTが予測する発達段階に沿った含意的関係が示され, データ収集方法の違いによる影響は見られなかった.本研究は, 第二言語習得における体系的側面の更なる理解に貢献すると共に, 第二言語文法発達の研究における異なる学習者コーパスの活用可能性を示唆している.