Second Language
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20 巻
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PART I
研究論文
  • 白畑 知彦, 横田 秀樹, 須田 孝司, 近藤 隆子, 小川 睦美
    2022 年 20 巻 p. 5-26
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル フリー

    本研究では, 日本語を母語とする英語学習者(以下, JLEsと略す)が, どのように(短距離)主語wh疑問文を習得していくのか理論的に考察する. 英語を母語とする子どものwh疑問文の獲得研究では, 主語wh疑問文は目的語wh疑問文より容易に習得できるという研究結果がある(Stromswold, 1988; Tyack & Ingram, 1977).しかし, JLEsを調査対象者にした第二言語習得研究では, 主語wh疑問文は他のwh疑問文より習得が困難であるとする研究報告がある(Shirahata & S. Ogawa, 2017; Shirahata et al., 2017).本研究もその線上にある. ここでは, 新たに2つの理論的観点, i)統語的視点:カートグラフィック・アプローチ(Rizzi, 1997), ii)意味的視点:主語名詞句における有生・無生の相違, を利用し, JLEsにとって, なぜ主語wh疑問文(主語whoとwhat疑問文)の習得が他のwh疑問文の習得よりも困難であるのか, そして, なぜ主語what疑問文が最も習得困難なwh疑問文であるのか, 実験結果をもとに説明を行う.

    実験参加者は, 日本に住む日本語を母語とする大学1年生45名であり, 英語の習熟度により3つのグループ(初級, 中級, 上級グループ)に分けて分析を行った. 実験では, 2種類の主語wh疑問文を使用した. Type 1は主語が有生物名詞句となるwho疑問文(e.g., Who bought this bag?), Type 2は主語が無生物名詞句となるwhat疑問文(e.g., What changed Mary so much?)である. 習得データは多肢選択タスクにより集められた.

    実験の結果, 初級段階のJLEsは, 日本語の統語的な特性と意味的な特性の両方からの影響を強く受けることが判明した. また, 中級段階の学習者になると, DO (YOU) が過剰挿入された文を適切であると判断するようになることが明らかとなった. 中級学習者のこの現象は, JLEsが教科書などから, DO (do, does, did) の使われているwh疑問文のインプット量が多くなるにつれて, 主語wh疑問文以外のwh疑問文で使用するFocusをwhプローブとして利用できるようになるために生じると考えられる. さらにJLEsの主語wh疑問文の習得が進んでくると, 彼らはFocus句とForce句は異なった状況で使われていることに次第に(無意識に)理解できるようになり, その結果, 適切な主語wh疑問文を許容するようになると思われる. このように, 本論文では, JLEsの主語wh疑問文の発達段階を実証的に明らかにした上で, なぜそのような過程をたどるのかを理論的に説明する.

PART II
研究論文〈第20回年次大会からの投稿〉
  • 山口 有実子, 川口 智美
    2022 年 20 巻 p. 29-45
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル フリー

    本稿では, 日本とオーストラリアにて独自に構築された二種類の学習者コーパス(Japanese Learner Corpus of English Narratives(JaLCEN), WSU-Xi'an Jiaotong ESL Corpus)をもとに第二言語としての英語習得を検証した結果の一部を発表する.JaLCENでは口頭と筆記のナラティブタスク, WSU-Xi'an Jiaotong ESL Corpusでは様々な口頭・筆記タスクが用いられた.本研究では, JaLCENより日本で英語を学ぶ日本語母語話者88人とWSU-Xi'an Jiaotong ESL Corpusより日本語及び中国語母語話者51人の口頭データを用いて, 学習者の英文法習得について語彙マッピングの発達段階に焦点を当てて, Processability Theory(PT; Pienemann, 1998; Bettoni & Di Biase, 2015a)が提唱するLexical Mapping Hypothesisを枠組みとして分析する.二種類の学習者コーパスを用いて文法構造の出現を基準として分析した結果, 学習者の語彙マッピングの習得は, PTが予測する発達段階に沿った含意的関係が示され, データ収集方法の違いによる影響は見られなかった.本研究は, 第二言語習得における体系的側面の更なる理解に貢献すると共に, 第二言語文法発達の研究における異なる学習者コーパスの活用可能性を示唆している.

  • 矢澤 翔
    2022 年 20 巻 p. 47-59
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル フリー

    日本語の連母音/ei/と/ee/および/ou/と/oo/はそれぞれ音韻中和しており, 長音化して[eː]や[oː]と発話されるのが一般的とされているが, 中和の程度は/ei/と/ee/より/ou/と/oo/の方がより完全であるという指摘がある.本研究は, 上記の音韻中和の傾向が英語の二重母音/eɪ/と/oʊ/の習得に転移するかを検証した.使用したのはJ-AESOPコーパス内の日本人英語学習者100名による英語音声データで, 各話者には複数の音声学者による発話習熟度の評定値が付与されている.音響・統計分析の結果, 習熟度の低い学習者による/eɪ/と/oʊ/の発話は, 英語母語話者と比べてフォルマント変化量が有意に小さかった.習熟度の高い学習者については, /eɪ/のフォルマント変化量は英語母語話者と有意な差は見られなかったが, /oʊ/に関しては有意差が認められた.これらの結果は, 日本語母語話者は音韻中和の転移から/eɪ/や/oʊ/を[eː]や[oː]と長音化して発話する傾向にあり, 中でも/oʊ/はより完全な音韻中和の転移を受けるために習得が困難であることを示唆している.なお, /ou/と/oo/のほぼ完全な音韻中和の転移は, 日本語母語話者が英語の/oʊ/と/ɔː/(例:boatbought)を混同する理由としても有力と考えられる.

PART III
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