本研究では, 日本語を母語とする英語学習者(以下, JLEsと略す)が, どのように(短距離)主語wh疑問文を習得していくのか理論的に考察する. 英語を母語とする子どものwh疑問文の獲得研究では, 主語wh疑問文は目的語wh疑問文より容易に習得できるという研究結果がある(Stromswold, 1988; Tyack & Ingram, 1977).しかし, JLEsを調査対象者にした第二言語習得研究では, 主語wh疑問文は他のwh疑問文より習得が困難であるとする研究報告がある(Shirahata & S. Ogawa, 2017; Shirahata et al., 2017).本研究もその線上にある. ここでは, 新たに2つの理論的観点, i)統語的視点:カートグラフィック・アプローチ(Rizzi, 1997), ii)意味的視点:主語名詞句における有生・無生の相違, を利用し, JLEsにとって, なぜ主語wh疑問文(主語whoとwhat疑問文)の習得が他のwh疑問文の習得よりも困難であるのか, そして, なぜ主語what疑問文が最も習得困難なwh疑問文であるのか, 実験結果をもとに説明を行う.
実験参加者は, 日本に住む日本語を母語とする大学1年生45名であり, 英語の習熟度により3つのグループ(初級, 中級, 上級グループ)に分けて分析を行った. 実験では, 2種類の主語wh疑問文を使用した. Type 1は主語が有生物名詞句となるwho疑問文(e.g., Who bought this bag?), Type 2は主語が無生物名詞句となるwhat疑問文(e.g., What changed Mary so much?)である. 習得データは多肢選択タスクにより集められた.
実験の結果, 初級段階のJLEsは, 日本語の統語的な特性と意味的な特性の両方からの影響を強く受けることが判明した. また, 中級段階の学習者になると, DO (YOU) が過剰挿入された文を適切であると判断するようになることが明らかとなった. 中級学習者のこの現象は, JLEsが教科書などから, DO (do, does, did) の使われているwh疑問文のインプット量が多くなるにつれて, 主語wh疑問文以外のwh疑問文で使用するFocusをwhプローブとして利用できるようになるために生じると考えられる. さらにJLEsの主語wh疑問文の習得が進んでくると, 彼らはFocus句とForce句は異なった状況で使われていることに次第に(無意識に)理解できるようになり, その結果, 適切な主語wh疑問文を許容するようになると思われる. このように, 本論文では, JLEsの主語wh疑問文の発達段階を実証的に明らかにした上で, なぜそのような過程をたどるのかを理論的に説明する.
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