2022 年 21 巻 p. 35-50
近年,文法は言語使用から創発すると唱える用法基盤モデルの枠組みで第二言語習得研究を行う潮流がある.しかしながら,これまで行われてきた用法基盤と称する研究は研究課題や方法において様々で,何をもって用法基盤第二言語習得研究とみなすのかを見失いがちになる.このことを明確にするため,本稿ではまず用法基盤モデルの鍵概念のうち,頻度,事態の捉え方,社会的相互作用の中で共有される意味,慣習性の4つを取り上げて議論する.次に,代表的な用法基盤第二言語習得研究のいくつかを,頻度,捉え方,社会的相互作用の観点で論じ,各研究が用法基盤第二言語習得の多面性のうちほんの1~2側面に注目したものであることを示す.それに基づき本論は,用法基盤第二言語習得研究はまだ萌芽期にあると確認する.その上で,展望として,マルチリンガリズムの視座で研究を行い,第一言語を含む既存の言語資源と第二言語との接触を通して新しい事態の捉え方がどのように創発し慣習化されるかを研究することが課題であると主張する.結論として,用法基盤第二言語習得の多面性という問題に取り組むためには,超学際的アプローチが必要になると思われる.