抄録
本研究は自他交替の第二言語習得について, 中間言語に見られる学習者の過剰般化エラーに着目し調査する.項構造習得の先行研究において, 受動化の過剰般化 (英語母語話者がThe window brokeを使用する文脈でThe window was broke, *The letter was arrived, *The child was cride), 使役化の過剰般化 (*The postman arrived the letter, *The dentist cried the child) による学習者のエラーが報告されている.ここでの疑問は, こうした過剰般化が母語にかかわらず第二言語学習者間で均等に観察されるのか, そして何故このようなエラーが起こるのか, 例えば文脈効果によるものなのか, もしくは母語転移によるものなのか, ということである.これらの疑問に答える為, スペイン語, 日本語をそれぞれ母語とする成人英語学習者を対象に, 実験調査を実施した.容認性判断テストと翻訳を基にした産出テストの結果, グループ間 (スペイン語母語話者対日本語母語話者), 英語習熟度 (習熟度の低いグループ対習熟度の高いグループ), 動詞クラス間 (非対格動詞対非能格動詞) で, 過剰般化エラー数の違いが観察された.実験のデータ分析の結果, 学習者は非対格動詞と非能格動詞を区別していることが分かった.過剰般化エラーは非能格動詞に比べ, 非対格動詞で顕著に観察され, この結果は項構造レベルでの両者の違いに起因すると考えられる.一方, 過剰受動化エラーにおけるに言語グループ間の違いは, 自他交替に関わる形態素とそれに伴う派生パターン, つまりスペイン語は反使役化に関わる形態素のみを持つが, 日本語では反使役化に加え, 脱使役化による自他交替も可能であるという二言語間の違いにより生じたものと考えられる.