物理探査
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特集「日本の物理探鉱(探査)100周年記念」
特集「日本の物理探鉱(探査)100周年記念」によせて
千葉 昭彦
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2020 年 73 巻 p. 225-226

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抄録

現在の公益社団法人物理探査学会が1948年5月に物理探鑛技術協会として創立されたことは学会のウェッブサイト等で確かめることができる。では,国内で初めて実施された物理探査は?となると簡単には答えられない。学会としての公式見解は会誌「物理探鑛」第1巻第1号に掲載された「本邦に於ける物理探鑛の回顧と展望」(編輯委員会,1948)の「仰々本邦に於ける物理探鑛の始まりは,大正8年(1919)年7月に京大工學部の山田賀一助教授がターレン・ティーベルグ式磁力計に拠り兵庫県宍粟郡高野鑛山に於ける磁鉄鉱探査を以て嚆矢として」である。この見解に基づくと2019年は日本の物理探鉱(探査)100周年という記念すべき年である。しかしながら,当学会では創立以来,5周年毎に記念行事を行い,2023年には創立75周年記念行事を行うべく準備が進んでいるにもかかわらず,日本の物理探鉱(探査)100周年のことまでは意識されていなかった。何事にも100年の歴史があることは重要であり,当学会の名誉会員で会長を務められたこともある佐々宏一京都大学名誉教授からの話題提供を契機に,2019年6月に開催した第140回(2019年春季)学術講演会中に日本の物理探鉱(探査)100周年記念行事を一般の皆様も無料で参加できる市民講座として開催した。この記念行事は100周年にちなみ,佐々名誉教授による総論の基調講演を皮切りに,国内における磁気探査,電気探査,電磁探査および地震探査の歴史に関する記念講演と,現代社会における物理探査をはじめとする地球科学の貢献をテーマした特別講演から構成された。国内にこだわらない各探査法の歴史は1998年に出版され,2016年の増補改訂された当学会の物理探査ハンドブックに手法ごとに章を設けて記述されているものの,国内における各探査法の歴史に焦点に当てたものはほとんどなく,記念講演の中から佐々名誉教授に総論,大熊茂雄会長(当時)に磁気探査および太田陽一元石油技術協会長に地震探査について論説としてまとめて頂き,本特集号とすることになった。

各執筆者が文献を丁寧に調べた結果,日本国内で最初に実施された物理探査は学会の公式見解よりも古く,佐々名誉教授は大正4年(1915年)に当時日本が占領統治していたマーシャル諸島のジャルート環礁で実施された重力偏差法探査(Matsuyama,1918)としている。一方,大熊会長は,自身が所属する工業技術院地質調査所創立100周年記念出版物から辿って,明治24年(1891年)に地質調査所の関野修蔵氏が釜石鉱山で行った磁気探鑛が最初である(佐藤,1985)としている。同論説で紹介されている明治13年(1880年)~14年(1881年)に実施された磁気測量も物理探査としてみなしてもよいかもしれない。いずれにしろ,最初に適用された物理探査は公式見解よりも古いと考えられ,残念ながら2019年が100周年ではなかった可能性がある。しかしながら,この記念講演をきっかけに日本における物理探査の歴史が明らかになり,創成期の物理探査と実施した技術者の苦労を垣間見ることができたことは物理探査学会と学会員にとって大きな意義がある。75周年事業として進行中の物理探査ハンドブックの全面改訂では各物理探査手法の歴史が割愛される可能性もあり,本特集が今後行われる学会創立記念行事でも貴重な資料になり得ると信ずる。

最後に,特集号に寄稿して頂いた執筆者をはじめとする記念講演者の方々,特集号発刊にご尽力頂いた会誌編集委員会および査読者各位,学術講演委員会をはじめとする記念行事開催に携わった方々に対し厚く御礼申し上げる。

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© 2020 社団法人 物理探査学会
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