2020 年 73 巻 p. 64-73
海底熱水鉱床開発に伴う環境影響評価についての法制度や標準的手法については、国際的にも議論が続いている。一方で深海での現場観測は多大な経費を必要とするが,商業レベルではいかにしてデータ品質を落とすことなく経済性・効率性を兼ね備えた調査観測を実施できるのかを求められている。SIP次世代海洋資源調査技術プロジェクト(以下,SIPプロジェクト)では,最新の調査技術と研究成果を導入した実用的な手法開発および経済性・効率性を兼ね備えた戦略的な評価手順の構築を目指した。深海生物群集を解析する手法として,微小生物(メイオファウナ)を対象とした画像解析による迅速検査法を開発し,遺伝子情報との組み合わせによる統合解析を検討した。海底での長期観測技術として、国内メーカーが深海底における長期モニタリング用機器として開発した「江戸っ子1号」による海底近傍の長期観測を実用化に取り組んだ。SIPプロジェクトで製作されたホバリング型AUV「ほばりん」による海底マッピング調査を行い,海底の詳細地形や中型~大型生物の生息状況といった環境情報を効率的に取得した。開発に伴う濁質水の拡散を精度よく予測するための基礎データとして重要な乱流観測に取り組み,深海乱流の直接計測のプロトコルを作成した。SIPプロジェクトではこれらの新たな知見に基づいた技術開発と手法改良を進めたが,さらに資源探査の段階から効率的に事前調査を実施する環境影響評価のプロトコルを考案した。これは近年環境省が推奨している「戦略的環境アセスメント」の考え方を適用した技術で,開発の早い段階から環境の状況を解析することで,より戦略的に,海域条件を考慮した鉱区設定および適切な環境保全と影響緩和策の立案ができると考えている。今後においては,SIPプロジェクトでの成果と経験が民間企業に実装されることが,国際競争力のある海洋産業の発展につながると考える。