物理探査
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解説
海底熱水鉱床の地球科学的理解
石橋 純一郎浦辺 徹郎
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2020 年 73 巻 p. 74-82

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抄録

金属資源の消費量が増加の一途をたどる中,将来の資源を海洋底に求めようとする動きが高まっている。海底熱水鉱床は,熱水が海底下を循環するシステムの作用で,亜鉛,鉛,銅などの硫化鉱物が沈殿して形成されるもので,鉱石中の金属濃集度が高いことから注目されている。我が国の大陸棚海域には,海底熱水系を伴う海底火山がこれまでにも数多く確認されており,金属資源のポテンシャルが高いことが期待できる。海底鉱物資源を系統的に調査(探査)する技術を開発することを主な目的として「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」が戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)課題の1つとして2014年から5年間実施された。複数の海洋物理探査手法を組み合わせて概査,準精査,精査と段階を追って効率的に調査海域を絞り込んでいく統合海洋資源調査システムの構築と,こうした海洋資源調査の手順を体系化した海底熱水鉱床調査技術プロトコルの策定が行われた。これらを活用して民間企業連合体が主体となった実海域での調査を行い,海底下鉱化帯の発見につなげることができた。科学的研究としては,地球深部探査船「ちきゅう」を用いた掘削調査航海が3回にわたり実施された。海底下から得られた堆積物試料や掘削に前後して行われた検層データの解析によって,沖縄トラフの熱水域においては硫化鉱物の産状が堆積作用に規制されているように見えること,鉱化帯を囲むように分布する熱水変質作用を被った堆積物層において間隙率や比抵抗などの物性が特異的になること,が確認された。また掘削で得られた試料を,かつて稼動していた黒鉱型鉱床の鉱山から得られた掘削試料と直接比較することもできるようになった。海洋洋物理探査技術の進歩は,海洋鉱物資源探査の効率化という点で重要であるだけでなく,より広範囲の地質学的情報を提供することにより海底熱水鉱床の地球科学的理解に貢献することも期待される。

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© 2020 社団法人 物理探査学会
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