日本生態学会誌
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特集:熱帯林における球果類優占のメカニズム
熱帯ヒース林における球果類の優占―森林構造と種組成を規定する要因
宮本 和樹 相場 慎一郎和頴 朗太Nilus Reuben
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2017 年 67 巻 3 号 p. 331-337

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抄録

熱帯ヒース林はポドゾルとよばれる貧栄養土壌に成立する熱帯林である。熱帯ヒース林は東南アジア地域で代表的な混交フタバガキ林のような突出木層をもたず、平坦で低い林冠や硬葉とよばれる厚い葉をもつ樹種が多いなど独特な景観を形作っている。ボルネオ島の熱帯ヒース林にはマキ科やナンヨウスギ科の球果類が出現することが多いが、同じ熱帯ヒース林でも球果類の種や優占度、地上部の森林構造、地下部の細根量には大きな変異がみられる。熱帯ヒース林の森林構造や種組成の変異を説明する環境要因として、土壌水分ストレス、土壌養分(特に窒素)の不足、土壌酸性度およびリター中のポリフェノールの存在など様々な仮説が指摘されてきた。しかし、現在のところ熱帯ヒース林でみられる森林構造や種組成の変異を十分に説明できるまでには至っていない。貧栄養環境における無機態窒素に代わる樹木の窒素源として、溶存有機態窒素(Dissolved Organic Nitrogen、DON)が注目されている。今後、熱帯ヒース林の森林構造や種組成の決定要因を明らかにするために、(1)無機態窒素と比べてDONが樹木にどの程度有効に利用されているのか、相対的な寄与を評価することと、(2)土壌だけでなくリターおよび樹体内部で保持されている養分量(特に窒素)を含めた、森林生態系全体として循環している利用可能な養分量を総合的に評価することが重要である。

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© 2017 一般社団法人 日本生態学会
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