抄録
真正紅藻類の多くは同形世代交代型生活環を示すが、単相の配偶体と複相の胞子体が同じ形態で、両世代が同時期・同所的に出現するため、世代交代を行う意義については不明な点が多い。これまでの野外調査や培養実験などにより、波当たりによって配偶体と胞子体の割合が異なること、水分含有量、藻体強度、発芽速度などが世代間で異なることが明らかになり、世代間の特性が異なることによって多様な沿岸環境に適応しやすくなる可能性が示された。一方で、有性生殖をせずに胞子体だけで個体群を維持している「独立胞子体」が様々な同形世代交代型紅藻で報告されている。アヤギヌ類の研究では、世界各地で何回も独立胞子体が生じていること、遺伝的に分化した個体間での交雑で独立胞子体化が起こることが明らかになり、実際に様々な同形世代交代型紅藻で独立胞子体が報告されている。さらに、独立胞子体はしばしば分布の外れで優占していること、有性生殖個体よりも広い温度帯で繁殖できることが示され、独立胞子体は分布拡大に貢献している可能性が示唆された。生理生態的特性が異なる2つの世代を備え、場合によっては無性生殖だけで繁殖可能な同形世代交代型生活環は、生育環境が大きく変化する潮間帯で生き抜くための有効な戦略と考えられる。