抄録
花器官における植物と微生物との相互作用は種子への微生物の垂直伝播や送粉者の誘引の促進・阻害によって、植物の生存・繁殖に大きな影響を及ぼしている。花上微生物叢(そう)の形成過程に関しては送粉者による分散について盛んに研究がなされてきたが、近年のメタバーコーディング研究の蓄積の中で、様々な要因が花上微生物叢の形成に関わっていることが明らかになってきた。雌しべや雄しべ、花弁などの器官はそれぞれ異なる生育環境を微生物に提供しており、花弁表面のUV反射率などの形質は微生物が直面する環境を変化させる。加えて、宿主植物のパターン誘導免疫等の免疫機構も花上微生物への強い選択圧となっている可能性がある。送粉者や盗蜜者を含む多様な生物と植物の相互作用は微生物に花への分散機会を提供したり、宿主植物の生理応答を促すことで花上微生物の群集組成を間接的に改変しうる。さらに、開花する微環境の違いや周囲に生育する植物といった環境要因は花に運ばれてくる微生物の違いを生むことで、花上微生物叢の状況依存性の原因となっている可能性がある。これらの要因の複合的な作用によって花上微生物群集が形成されると考えられる一方で、これらの要因による微生物叢改変の詳細なメカニズムや宿主植物の生育への影響に関してはほとんど明らかでなく、今後実験的検証を含む多角的アプローチを進めていく必要がある。