本研究は,連結の範囲に関する連結会計制度を粉飾防止の観点から検証し,その今日的な意義を再検討することを目的とする.粉飾の様態のうち,連結財務諸表ないし企業集団に関係する事例の場合,粉飾規模が大きくなりうる.
連結会計制度が確立された直接的な理由のひとつに粉飾決算の防止があった.当初の会計基準では,連結会社相互間の取引高の相殺消去等が規定されたものの,連結の範囲は持株基準により,粉飾の余地が残された.その後,支配力基準に変更となり連結の範囲は拡大された.金融商品の時価評価と合わせて,粉飾の余地を減らす会計の整備であった.他方,これらの新しい会計基準は業績の良くない企業にとっては不都合な規制であって,オリンパス株式会社は,連結の対象とはならないファンドを用いて,損失を含む金融商品を帳簿価額で切り離す「飛ばし」という損失分離スキームを策定した.さらに損失分離解消スキームによって,企業買収案件に他社の株式や資産を取得する際に,損失分離スキームにおいて分離した損失分を当該資産の価値に上乗せしたり,取得アドバイザーに多額の報酬を支払うことにより,その上乗せ分や報酬額をのれん等の資産に計上し,その後,会計上の償却期間にわたって段階的に償却し費用計上する方法が策定されている.
会社に準ずる事業体を連結の範囲に含めることは粉飾を防止する一助となりえたし,のれんの規則的な償却を再考する課題を提示した.国際的なコンバージェンスの促進と各国の事例の相互理解が粉飾を防止するうえで有効である.