本研究は,引当金会計をとりあげ,中小企業が事業活動を継続しながらも環境保全を可能とするような会計制度の構築を提言することを研究の目的とする.会計制度において,公正処理基準および債務確定基準からみると,以前よりも緊密となった会社法と会計基準との関係に対し,特に中小企業の場合,依然として会社法会計は法人税法の影響を受けており,中小企業会計要領の新設が示すように実務における法人税法の規定は重要である.
グローバルなコンバージェンスが進展する大企業は,会計実務において,基準が発効した資産除去債務のほか,環境関連項目を含む引当金の計上が増加している.他方,中小企業は,法人税法の引当金損金算入規定の廃止もあって,もともとの非実務性が変化していないようである.有害物質を含む有形固定資産の除却を促進するためにはそれを可能とする資金の裏付けが必要であり,ここに,関係する会計制度ないし会計基準を改正する余地がある.判例はこれを阻害してはいない.
持続性のある社会の構成員であるという点で,環境を保全する義務に企業の規模は関係がない.中小企業であるがゆえに水準の高いコーポレート・ガバナンスを構築し,適正な財務諸表・計算書類を作成することが,ステークホルダーに有用であることを経営者は自覚すべきである.