抄録
グリーンランド氷床北西部における降雪中のd-excessと化学成分と,降雪をもたらす水蒸気の起源域周辺の環境との関係を明らかにすることを目的として,2017年5月25日から6月6日にかけてグリーンランド氷床北西部のSIGMA-A観測サイトにおいて降雪直後の表面雪を採取した.表面雪中の水素と酸素の安定同位体比から算出することが出来るd-excessは観測期間中に2度の極大値を示した.d-excessが極大値を示した日は陸域起源物質,人為起源物質ともに減少し,Cl−/Na+比が海水比に近い値を示した.海塩の変質が他の日に比べて生じていなかったことから,それらの日はSIGMA-Aに近い海域から海塩粒子が輸送されたと推定された.更に,後方流跡線解析と気象解析によりd-excessが極大値を示した原因は,低温,乾燥した空気が比較的海面温度が高い開水面上を通過したからであると推定された.また,d-excessが極大値を示した日にSIGMA-Aに到達した空気塊が輸送中にバフィン湾上空で比較的長時間滞留し,開水面から大気中に拡散された高いd-excessを持つ水蒸気を多量に取り込んだ可能性が示唆された.更に,バフィン湾北部海上で発達した低気圧性循環の風が開水面で高いd-excessを持つ水蒸気の拡散とバフィン湾上での空気塊の滞留を促したと推定された.