2021 年 34 巻 6 号 p. 270-280
本研究では,ポリエチレン(PE),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリ塩化ビニル(PVC)に吸着した2,4,5-トリクロロフェノール(TriCP)の光分解に対するプラスチックのエイジングの効果を評価した。ガラスやこれらバージンプラスチック上での光分解速度を比較した結果,バージンPE上ではTriCPの光分解は促進されるが,PETやPVC上では光分解が抑制されることが明らかとなった。また,エイジングしたPE, PET, PVC上ではガラスや各々のバージン試料よりも分解が遅かった。これより,プラスチックのエイジングは吸着したTriCPの光分解の速度に影響することが確認された。エイジングしたプラスチックの表面を分析した結果,プラスチック表面には隆起が多く認められた。また,UVに対する透過性も低下しており,TriCPに作用するUV強度の低下がエイジングによる分解抑制の一因であることが示された。その一方で,プラスチックのメタノール抽出物はTriCPの光分解を抑制した。プラスチックの構造や光の透過性,プラスチック添加物の放出は実環境でも生じうることから,吸着した有機汚染物質の運命の評価の際には,こうしたエイジングによる効果を考慮する必要がある。