環境科学会誌
Online ISSN : 1884-5029
Print ISSN : 0915-0048
ISSN-L : 0915-0048
ネットプランクトンおよび海産哺乳類による水域の汚染評価
川合 真一郎
著者情報
ジャーナル フリー

2005 年 18 巻 2 号 p. 137-144

詳細
抄録

 港湾域や河口域のプランクトンおよび日本近海の黒潮縁辺部を回遊するスジイルカを用いて水域の汚染レベルを評価した。対象とした汚染物質は,水銀,カドミウム,鉛,銅などの重金属と,PCBs,DDTsおよびHCHsなどの有機塩素化合物である。淀川の河口域や大阪港周辺海域で採集したネットプランクトン(植物および動物プランクトン,微細浮遊物などネットで採集したものすべてを含む)中の重金属濃度の序列はHg<Cd<Ni,Cr,Pb<Cu,Mn<Zn<Feであった。NiとMnを除いて,ネットプランクトン中の重金属のレベルは海水中の濃度に対応しており,濃縮係数は1~5×104であったが,NiやMnでは0.4~0.5×104であった。PCBsやHCHsはネットプランクトン中でそれぞれ1~5μg/g・dryおよび0.1~0.2μg/g・dryの範囲内で検出された。これらの値はプランクトンの採集地点における海水中の濃度に依存しており,濃縮係数を求めるとそれぞれ11×104および0.4×104であった。これらの結果から,重金属や有機塩素化合物による水域の汚染レベルをおおよそ評価する際に,ネットプランクトンを用いることが有効であるといえる。 和歌山県沖で漁獲された,年令(0~40才)および性状態(未成熟個体,成熟オス,授乳中の個体など)が異なるスジイルカ(Stenella coeyuleoalba)について体内の各器官・組織ごとのPCBs,DDTsおよびHCHsを測定したところ,性成熟に達する12才ごろからメスの脂皮(blubber)中の有機塩素化合物濃度は急激に低下した.一方,成熟オスにおいては有機塩素化合物濃度は高いレベルを維持していた.成熟メスの体内に蓄積された有機塩素化合物の70%以上が出産後の授乳を通じて新生仔に移行していることがわかった。また,PCBsやDDTsは脂質含量の高い組織に蓄積しているが,とくに,組織中の中性脂肪(Triglycerides)含量とPCBsやDDTsなどの有機塩素化合物濃度との問には密接な関係があることがわかった。

著者関連情報
© 環境科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top