2008 年 21 巻 1 号 p. 27-36
循環型社会を形成するための評価手法として,地域単位におけるマテリアルフロー分析が提唱されている。マテリアルフロー分析は,対象システムの物質の流れを定量的に示し,環境負荷との関係を明らかにする方法である。本研究では,物流センサス(全国貨物純流動調査)を用いて,山梨県の1990年,1995年,2000年のマテリアルフローを推計し,物質収支の時系列変化を定量的に把握することを目的とする。従来,都道府県レベルのマテリアルフロー分析は,地域間の比較分析から地域の特徴把握を重視する傾向にあり,時系列の観点からはあまり分析がなされていない。そこで,時系列データの長所を活かし,得られた推計結果と業種別廃棄物排出量,最終エネルギー消費量などの統計データを参照し,マクロな観点から,物質循環の指標や廃棄物排出量の要因分析について,新たに提案する。 マテリアルフローを推計した結果,総発量と総着量の差から算出された山梨県の物質収支は,1990年から2000年までの10年間においてプラスからマイナスに転じた。これは,県内へ入荷される金属機械工業品の増加と同時に県外へ出荷される鉱産品の量が大きく減少したことに起因する。また,山梨県は過去10年間において総着量に対する廃棄物排出量の削減および付加価値の高い製品を出荷する生産構造へ進展しているが,エネルギー消費量や二酸化炭素排出量の側面では悪化していることがわかった。山梨県の廃棄物排出量の変動について,1995年の廃棄物排出量が増加した理由は,第2次産業の経済活動の停滞に対し,第3次産業の経済活動が活発になったことが考えられる。一方,2000年の廃棄物排出量が減少した理由は,第2次産業におけるリデュースの効果と考えられ,鉱業の生産活動の変化が最も関係していることがわかった。以上の分析から,地域単位のマテリアルフローを時系列の観点から分析する有用性を示すことができた。