抄録
本研究ではタッピング運動中の咀嚼筋活動に対して視覚情報が影響を及ぼすかどうかを検討した.25名の健常者の咬筋と側頭筋の筋活動を表面電極で双極導出した筋電図から解析した.下顎切歯部に取り付けたLED標点の動きをフォトセンサーで記録して顎の動きを解析した.プリズムレンズを取り付けた眼鏡を用いて被験者の目の前に現れる光景を変化させた.被験者は枕で頭を保持して仰臥位に横たわった.被験者にプリズムレンズの作用前後で連続したタッピング運動を行うよう指示した.ほとんどの被験者で側頭筋EMGと咬筋EMGの比(T-M比)が眼鏡装着後に減少した.同じく,タッピングポイントの前方偏位がプリズムレンズの作用後で認められた.しかしながら,プリズムレンズの作用によるT-M比の減少とタッピングポイントの前方偏位は,被験者が自力で頭位を保持した際には現れなかった.これらの結果は,視覚情報が咀嚼筋活動を制御し,頸筋の自己受容器がこの制御システムに関わっていることを示唆している.