本研究では,部分歯列欠損患者(Eichner分類;B3,B4,C1,C2)を対象として,咬合支持喪失状態が「[n]持続発音時の下顎位」(以下,[n]持続発音位)に及ぼす影響について検討するとともに,[n]持続発音位を応用して新製した有床義歯装着者における[n]持続発音位の経時的変化についても併せて検討した.
実験1として,部分歯列欠損患者22名を対象に咬合支持喪失状態が[n]持続発音位に及ぼす影響について検討した.実験2として,咬合支持を喪失した部分歯列欠損患者3名を対象に,[n]持続発音位を応用して新製した有床義歯装着者における[n]持続発音位の経時的変化について検討した.
その結果,以下の結論を得た.
1.咬頭嵌合位を発音開始位とした場合の,[n]持続発音位における垂直的開口距離(以下,[n]空隙)は,コントロール群,B3群,B4群,C1群,C2群のいずれの群間においても有意差は認められなかった.
2.下顎安静位を発音開始位とした場合の[n]空隙は,コントロール群,B3群,B4群,C1群,C2群のいずれの群間においても有意差は認められなかった.
3.コントロール群,B3群,B4群,C1群,C2群の各群における,2種類の発音開始位(咬頭嵌合位と下顎安静位)間での[n]空隙の有意差は認められなかった.
4.[n]持続発音位を応用して新製した有床義歯装着者(Eichner分類 C2)における[n]空隙は,義歯装着後6か月までの間において,咬合採得時とほぼ同一の値を示すとともに,有意差は認められなかった.
以上より,[n]持続発音位は垂直顎間距離決定における基準下顎位として有用となることが示唆された.
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