抄録
ノンレム睡眠とレム睡眠は,ともにサーカディアンシステムの影響下,時間的な関係性を持ちながら発生する.しかし,その発生機序は責任部位や神経回路といった点で大きく異なる.自律神経活動の面でも,この2つの睡眠は全く異なる様相を呈する.大まかに言って,ノンレム睡眠はその“安定性”,レム睡眠は“不安定(予測不能)性”にある.レム睡眠期の自律神経活動の現象に関して,古くからtonicな現象とphasicな現象とに分類されてきた.phasicな現象とは,「自律神経系の嵐」とも呼ばれる突発的で予測できない現象である.血圧ではサージ,あるいはスパイク様の大きな上昇が見られ,それと連動するような徐脈や頻脈,また,呼吸の停止などがphasicな現象として挙げられる.クロードベルナール大学で行われた除脳ネコでの観察は,血圧のphasicな現象が中枢神経のどこを発信源とするかを問う初めての実験であった.今回改めて,レム睡眠のphasicな現象の不思議さについて再認識する機会としたい.