2026 年 32 巻 1 号 p. 95-97
Ⅰ.目的
頭蓋骨と下顎骨の間に作用する筋力は,歯列の咬合接触点と両側の顎関節に分散され,それぞれ咬合力と顎関節負荷を生じさせる1).力の分布が不均衡になると,咬合性外傷や変形性関節症などの顎関節症状を引き起こす可能性があるため,噛みしめ時の咬合状態の力学的評価は重要である.
感圧フィルムによる咬合力測定法は,複数の咬合接触面における咬合力の大きさの同時記録が可能であることが特徴である.各咬合接触面の位置や形態の情報と組み合わせることで, 歯列に作用する咬合力の全体像を把握できるが,6変数(作用部位の座標と咬合力ベクトル)で記述される各咬合力を羅列するのみでは,咬合の力学的特徴の直観的把握が難しいばかりか,個人内・個人間の比較も困難である.歯列上咬合力を一定の少数の変数に集約することは,噛みしめ時の咬合状態の力学的特徴を捉え,診断や治療プロセスで活用するうえで必要である.
Wrenchと呼ばれる力学的手法は,複数の作用点に働く力を,合力の作用軸と同じ軸回りのモーメントとの組み合わせにより表現するもので,歯列上咬合力をそれと等価なWrenchにより簡潔に表現する手法が既に提案されている2).しかし,デジタル歯学が未発達であった提案当時, 歯列形状を計測し,咬合接触面を検出する工程に膨大な労力と時間を要したため,Wrenchによる咬合力分析が臨床応用されるには至らなかった.
近年の歯科医療分野におけるデジタル技術の発展は著しい.デジタル技術を応用することで,Wrenchによる咬合力分析の技術的困難を克服できる可能性がある.
本研究の目的は, デジタル技術を活用して分析に必要な労力と時間を大幅に削減した,新しいWrenchによる咬合力分析システムの開発である.