日本顎口腔機能学会雑誌
Online ISSN : 1883-986X
Print ISSN : 1340-9085
ISSN-L : 1340-9085
耳症状を有していた顎関節症の1症例
―耳症状と顎関節症との関連性―
佐藤 智昭佐々木 啓一渡辺 誠
著者情報
キーワード: 顎関節症, 耳症状, 咬合治療
ジャーナル フリー

2003 年 10 巻 1 号 p. 11-17

詳細
抄録

顎関節症では, 耳痛, 耳鳴, 目眩などの耳症状が発現する場合があり, 顎関節症と耳症状との関連が指摘されている.しかしながら, 顎関節症の治療に伴う耳症状の変化に関する報告は少ない.そこで本症例報告では.咬合治療によって顎関節症症状と耳症状が同時に改善された症例を提示する.
患者は36歳の女性であり, 右側の顎関節部の開口痛と雑音を主訴に来院した.耳症状は耳痛と耳鳴が顎関節症の患側と同じ右側に認め, 耳鳴は顎関節雑音とともに初診時の7ケ月前から, 耳痛は顎関節部の開口痛とともに初診時の1ヶ月前から発現していた.また, 患者は幼少期に罹患した中耳炎の後遺症による目眩を有していたが, 顎関節症の発症とともに悪化していた.触診による圧痛は, 右側の顎関節, 咬筋, 側頭筋, 内側翼突筋, 外側翼突筋, 顎二腹筋後腹など広範囲に認められた.顎関節のX線写真では, 閉口位において両側の下顎頭が上方に位置していた.咬合診査では, 上顎前歯部レジン前装冠に早期接触と, 下顎臼歯部部分床義歯の低位咬合を認めた.顎関節症の治療では, 咬合診査で認められた早期接触部位の咬合調整を行うとともに, 下顎部分床義歯咬合面に常温重合レジンを添加し, 対合歯との咬合接触を付与した.その結果, 耳痛と顎関節部の開口痛は, 咬合治療開始後すぐに消失した.耳鳴も関節雑音の消失とともに改善し, 治療終了時にはごくたまに発現する程度になった.目眩も治療開始以降ほとんど発現せず, 治療開始前の頭位変換眼振検査, 足踏み検査, 温度刺激検査で認められた異常所見も, 治療開始9ケ月後の検査では認められなかった.これらの臨床経過から, 本症例の耳症状は顎関節症の症状と関連しており, 原因の一部を顎関節症と共有していた可能性が示唆された.

著者関連情報
© 日本顎口腔機能学会
前の記事 次の記事
feedback
Top