抄録
顎関節円板は下顎頭と下顎窩との間に介在する線維軟骨性組織である.その主な構成成分はコラーゲン線維とその線維の間隙を満たすプロテオグリカンであり, これらの構成成分が顎関節円板の持つ粘弾性特性に関連している.結果として顎関節円板は機能時に応力緩衝帯としての重要な役割を果たしている.円板の有する粘弾性特性は負荷の方向, 大きさ, 速度および様式によって大きく異なる.加えて, この特性は加齢, 外傷, 疾患のように一生のうちに生じる内因性あるいは外因性の因子によって変化するものである.このように多様な顎関節円板の力学特性に関する情報は顎関節円板に対する再生医学の進歩には必要不可欠である.本稿では, 顎関節円板の様々な力学的環境における生体力学的性状を紹介するとともに, 最適な顎関節置換物の開発や顎関節円板の再生医学の可能性について考察する.