抄録
本研究は, 咀嚼進行に伴い変化する食品の物性に中枢的に, また末梢的にも咀嚼系が対応する過程を舌運動, 下顎運動の同時記録により観察することを目的とした.口腔内に食物が入ってから嚥下まで, つまり咀嚼口腔期を, 舌運動の観察から食品選別相 (SO相) , 移行相 (DE相) , 食塊形成相 (BF相) に分けた.被験食品には, 食品テクスチャーの異なるおかき, かまぼこ, たくあんを選択し, 咀嚼進行に伴う舌および下顎運動の変化ならびに舌と下顎運動の関連性の変化を観察した.また, 食品テクスチャーの相違による変化を観察したところ, 以下の結果を得た.
1.咀嚼進行に伴って下顎運動での閉口相時間は短縮, 咬合相時間は延長, 開口相時間はほぼ一定の傾向がみられた.
2.咀嚼進行に伴って各ストロークにおける舌最下点と閉口相開始点はほぼ一定, 咬合相開始点とはわずかに短縮, 開口相開始点とはほぼ一定の傾向がみられた.
3.咀嚼進行に伴う機能的変化は, SO相では食品間の差が大きくなったが, BF相では食品間の差が小さくなる傾向を示した.