日本顎口腔機能学会雑誌
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咀嚼時の切歯点と大臼歯点における咬頭嵌合位付近の運動経路
住吉 圭太小川 隆広古谷野 潔築山 能大築山 美和山田 隆司市来 利香相沢 茂荻本 多津生梅本 丈二
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1997 年 4 巻 1 号 p. 51-58

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抄録
咀嚼運動に関する研究の多くは, 切歯の運動解析に限局することが多く, 実際に機能が営まれる大臼歯での運動解析を行った研究はほとんど見あたらない.従って, 我々は大臼歯における運動経路に注目し, 切歯と両側大臼歯における咀嚼運動経路のパターン分類を行い, 前頭面では切歯点と両側大臼歯は同じパターンを示すが, 矢状面では異なることを報告してきた.しかしこれらの研究は3解析点の経路の全体像を比較したに過ぎず, 実際に機能に関与する咬頭嵌合位付近に関する情報は未だ明らかではない.そこで本研究では, 咬頭嵌合位付近での両側大臼歯の運動を計測・解析し, 切歯の運動経路との関連性を明らかにすることをその目的とした.
被験者はいわゆる正常有歯顎者50名 (男性22名, 女性28名, 年齢19~35歳, 平均年齢22.3歳) とし, 右側でのガム咀嚼運動を当教室独自の下顎運動計測システムを用いて計測した.解析点は下顎の左側中切歯の近心切縁隅角と両側第一大臼歯の遠心頬側咬頭頂とした.計測した咀嚼運動20ストローク中の5~14ストロークの10ストローク, 被験者全員で合計500ストロークを解析対象とし, 以下に示すような順序で解析を行った.まず切歯点, 両側大臼歯点それぞれの点での咀嚼運動経路の開口量0.1mm~3.Ommにおける0.1mmごとの前後・左右的座標値を, 1ストロークごとに算出した.次にこの座標値を, 各被験者内の10ストローク間で各開口量ごとに平均した.そして各開口量での平均値の, 解析点間での差の検定を, 分散分析を用いたのち多重比較検定としてFisher's PLSD法を用いて有意差検定を行った.なお, 危険率5%以下のものを統計学的に有意とした.
結果を以下に示す.
1.前頭面における開閉口路は, 3解析点ともほぼ同じ経路を描いていた
2.矢状面における開口路は, 前頭面同様, 3解析点ともほぼ同じ経路を描いていた.一方, 閉口路は解析点間の差が認められ, 切歯点を基準とすると作業側大臼歯点の閉口路は後方寄り, 非作業側大臼歯点の閉口路は前方寄りの経路を描いていた.
以上の結果より, 咀嚼運動時の咬頭嵌合位付近の大臼歯点の運動経路は, 閉口相において切歯点の運動経路と異なることが示唆された.
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