日本歯科保存学雑誌
Online ISSN : 2188-0808
Print ISSN : 0387-2343
ISSN-L : 0387-2343
原著
メカニカルストレスと歯周病原菌が歯根膜のサイトカイン産生に与える影響
山本 俊郎山本 健太赤松 佑紀中西 哲大迫 文重喜多 正和金村 成智
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 52 巻 2 号 p. 176-183

詳細
抄録

これまでにわれわれは,ヒト歯根膜由来細胞(hPDL細胞)がヒト咬合圧に近似したメカニカルストレス(力学的負荷)や歯周病原菌Porphyromonas gingivalisに対しサイトカイン産生能を有し,歯周組織の局所炎症や外傷性咬合に影響を与えることを報告した.そこで今回は,hPDL細胞でのサイトカイン産生について生体に対して過剰なメカニカルストレスの影響および歯周病原因子である歯周病原菌P.gingivalisとメカニカルストレスに関して検討を加えた.hPDL細胞は,患者に対して同意を得たうえで歯根膜の組織片を採取,10% FBSDMEMで初代培養を行い,継代培養後に1×105CFU/mlで播種,コンフルエントに達した後,静水圧(1,6,10,50MPa)を負荷した(メカニカルストレス単独刺激群とし,以下,単独刺激群).さらに,P.gingivalis(1×107CFU/ml)を用いて24時間の細菌刺激を行った(メカニカルストレスとP.gingivalis複合刺激群とし,以下,複合刺激群).その後,炎症性サイトカインIL-1β,6,8,TNF-αに関してRT-PCR法およびELISA法,負荷前後の細胞形態を鏡検にて確認した.なお,hPDL細胞の使用に関しては,当大学における人間を対象とする医学研究審査委員会より承認ずみである.単独刺激群ではIL-6,IL-8,TNF-α mRNAが発現,複合刺激群ではすべての炎症性サイトカインmRNAを発現誘導した.そして単独刺激群のIL-6,IL-8産生量は,メカニカルストレスが強くなると増加した.また複合刺激群は,単独刺激群に比べてIL-6,IL-8産生量の増加を認めた.またhPDL細胞は,6MPaおよび10MPa負荷後において形態学的な変化をほとんど認めなかったが,50MPa負荷後ではほぼ紡錘状の形態を有するものの,一部細胞が培養皿から剥離していた.以上から,hPDL細胞の炎症性サイトカイン産生は,メカニカルストレスの強さの影響を受けるとともに,メカニカルストレスよりも歯周病原菌P.gingivalisの影響を強く受けることが判明した.このことから,歯根膜の局所炎症には歯周病原菌の影響が強く,メカニカルストレスはこれを助長する因子である可能性が高いと考えられた.

著者関連情報
© 2009 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
前の記事 次の記事
feedback
Top