2009 年 52 巻 2 号 p. 190-198
大きな欠損を有するClassIII・IV窩洞などの症例では,歯の色調に適合した1種類のコンポジットレジンを選択して充填を行っても,背景色が透過してしまい暗調にみえてしまうことを経験する.背景色を遮断する目的で,レイヤリングテクニックが有効であるが基礎的報告はあまりみられない.以前われわれは,Vitapan Classical shade guideに規格窩洞を形成し,直接レジン充填を行う臨床に近似した基礎的実験系を考案し,レイヤリングテクニックの有用性を報告した.今回は,光重合型コンポジットレジンの色調をVitapan Classical shade guideに近づけた色調改良型コンポジットレジンのFiltek™ supreme DL universal restorative(3M ESPE)を使用し,レイヤリングテクニックの基礎的評価を行った.方法は,Vitapan Classical shade guideを実験歯として窩洞形成を行い,オペークシェードとボディシェードのコンポジットレジンによるレイヤリングの後,測色計でCIE1976L*a*b*値とXYZ値を計測し,ΔE*ab,TP値,コントラスト比を算出した.その結果,以下の結論を得た.1.ΔE*abの結果から,歯の色調がA2の場合,OA3+A2のレイヤリングテクニックが有効であった.歯の色調がA3の場合,OA3+A3またはOA4+A3のレイヤリングテクニックが有効であった.歯の色調がA4の場合,OA4+A4のレイヤリングテクニックとA4のみの単層充填では差はみられなかった.2.TP値とコントラスト比の結果から,ボディシェードのみの単層充填では透明性が増加し,背景色の影響を受けやすくなることが考えられた.3.色調改良型ナノフィラーコンポジットレジンは,前回の実験で用いたナノフィラーコンポジットレジンと比較して色調適合性が向上していた.このことから,レイヤリングテクニックを用いたコンポジットレジン修復を行う際には,歯の色調と比較して同等または少し明度の低いオペークシェードを選択し,その上層に修復する歯の色調に近似したボディシェードを積層することで審美修復が可能となった.また歯の明度が低い場合,それより明度の高いオペークシェードを選択すると色調が不調和になる可能性が示唆された.