日本歯科保存学雑誌
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原著
象牙質知覚過敏抑制材「ナノシール」の象牙細管封鎖性臨床評価
山口 博康矢作 保澄浅野 倉栄横田 兼欣常川 勝由
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キーワード: 象牙質知覚過敏, 血液, 唾液
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2014 年 57 巻 4 号 p. 333-342

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抄録

 目的: 新しい象牙質知覚過敏 (Dentin Hypersensitivity: Hys) 抑制材「ナノシール」はブラシで歯面を擦る操作が必要なく, 塗布するだけで歯面にナノ粒子の層を形成し, 象牙細管を封鎖してHys抑制効果を発現する新材料である. 今回, われわれは歯頸部および露出根面のHysに対してナノシール適用による疼痛抑制効果を明らかにすべく, 臨床使用を想定した象牙細管封鎖性試験および臨床評価を実施した.
 対象と方法: 象牙細管封鎖性試験には牛歯を用い, 血液や唾液の付着による汚染, 濡れた歯面への塗布, 十分な塗布時間がかけられないケースなど, 臨床的に想定される不利な条件においてナノシールを適用し, 象牙細管封鎖性をFE-SEMにて確認した.
 臨床評価については, Hysと診断された101症例を対象とし, 歯頸部および露出根面の象牙質にナノシールを塗布, 水洗し, 術前後の疼痛について評価を行った. 診査は処置1週間後に行い, 冷気刺激・擦過刺激による疼痛および患者による飲食やブラッシング時など生活のなかでの誘発痛について, 一元的評価法の痛みの強さの評価としてVisual Analogue Scale (VAS), 多元的評価法の痛みの強さの評価として, 簡易型McGill痛みの質問表中の6段階に分類したPresent Pain Intensity (PPI) を用いて評価した. 有効性については, VAS値の変化とPPIの変化を加味して総合判定した.
 結果:
 A. 象牙細管封鎖性試験
 血液や唾液の付着による汚染, 濡れた歯面 (2~4倍希釈), 塗布時間が十分でない場合 (3~8秒間), いずれの想定条件においても, 塗布後の象牙質表面はナノシールの生成物と思われる凝集物で完全に被覆されており, 同時に象牙細管も封鎖されていることが確認された.
 B. 臨床評価: 1. VAS値の変化; VASの平均値は術前の32.7±22.4から8.5±9.7に低下し, 術前後で疼痛症状が有意に改善された (paired t-test: p<0.01). 2. PPIの変化; PPIの平均スコアは術前の1.7±1.0から0.5±0.5に低下し, 術前後で疼痛症状が有意に改善された (paired t-test: p<0.01). 3. 有効性の総合評価; 101症例中, 87症例 (86.1%) でナノシールのHys抑制効果が認められ, 51症例 (50.5%) で症状が完全に消失した. 4. 安全性, 利便性; 全症例にわたって患歯, 周囲歯肉および口腔粘膜への為害作用はなく, 全身的副作用も認められなかった. 操作性は良好であり, 血液・唾液による汚染の影響を受けにくく, 隣接面や歯肉溝内にも使用できることが示された.
 結論: 本研究結果よりナノシールはHys抑制効果, 安全性, 利便性が示され日常臨床において有用であることが示唆された.

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