日本歯科保存学雑誌
Online ISSN : 2188-0808
Print ISSN : 0387-2343
ISSN-L : 0387-2343
原著
S-PRGフィラー含有根管貼薬剤に関するin vitroでの検討
白井 要伊藤 修一中塚 侑子清水 伸太郎河野 舞斎藤 隆史長澤 敏行古市 保志
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 60 巻 2 号 p. 69-77

詳細
抄録

 目的 : 感染根管治療の目的は, 根管口を通じて侵入した根管内細菌の排除や, 根管内に残留した歯髄壊死組織の除去である. 根管内の歯髄壊死組織や感染象牙質の除去は化学的・機械的清掃では困難なことが多く, 根管貼薬剤を使用することは感染根管治療の治療効果向上のために不可欠である. S-PRG (Surface reaction type Pre-Reacted Glass-ionomer technology) フィラーは, 多種のイオンを徐放する材料として多くの歯科材料に配合され, S-PRGフィラーが放出するイオンは抗菌作用や硬組織の石灰化を促進することが明らかにされている. そこで本研究では, 試作S-PRGフィラー含有水性ペーストを根管貼薬剤として用いて, 根尖孔外に及ぼす影響について検討を行った.

 材料と方法 : 実験材料として, S-PRGフィラー含有根管貼薬剤ペースト (松風, 以下, S-PRGペースト) を用いた. 実験には, 生活歯として抜去された下顎小臼歯を用いた. 根管用切削器具にて根管拡大形成を行い, S-PRGペーストを根管内に充塡した. その後, 根尖孔外pHおよび根尖孔と象牙細管からの溶出イオンを測定した. コントロールとして, 水酸化カルシウム製根管貼薬剤を用いた.

 成績 : 根管内にS-PRGペーストを貼薬したときの根尖孔外pHは, 貼薬12時間後に上昇を認め, 5日後には最大値である7.7±0.3まで上昇し続けた. S-PRGペーストを貼薬した根管において, 根尖孔外にはSiO32− (ケイ酸イオン : Si), Al3+ (アルミニウムイオン), Sr2+ (ストロンチウムイオン), BO33− (ホウ酸イオン : B), Na+ (ナトリウムイオン : Na), F (フッ化物イオン) が検出され, 象牙細管から歯根外に溶出したイオンとして, Si, B, Naが検出された. また, Bは象牙質の厚さが増加しても溶出イオン量に有意な減少を認めなかった. 根尖孔外を酸性環境にした根管内にS-PRGペーストを貼薬したところ, 12時間後にはpHの上昇を認め, 1週間後には6.3±0.2まで上昇した.

 結論 : 根管貼薬剤としてS-PRGフィラーを使用したところ, 根尖孔外のpHの上昇と各種イオンの放出が認められた. 以上から, S-PRGフィラーは根管貼薬剤ペーストとして根尖孔外の殺菌や石灰化促進に有効である可能性が示唆された.

著者関連情報
© 2017 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
次の記事
feedback
Top