日本歯科保存学雑誌
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原著
未重合レジンセメントと未重合フロアブルレジンの結合力
杉井 英樹吉田 晋一郎友清 淳濱野 さゆり長谷川 大学前田 英史
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2020 年 63 巻 1 号 p. 44-51

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抄録

 目的 : 抜歯の原因として歯根破折が増加しているが, その要因としてポストに使用される金属と歯根象牙質の弾性率の違いが示唆されている. そこで, その対策としてファイバーポストとコンポジットレジンを併用し, 支台築造体自体の弾性率を象牙質のそれに近似させる試みがなされてきた. 近年, 根管象牙質とファイバーポスト併用レジン支台築造体の結合を増強させるため, ポスト部分にレジンセメントを, コア部分にフロアブルレジンを使用する方法が実施されている. しかしながら, これまでに未重合のレジンセメントと未重合のフロアブルレジンの結合力を評価した報告はない. そこで本研究では, レジンセメントを使用した支台築造を想定し, メチルメタクリレート (MMA) 系およびコンポジット系のレジンセメントを用いて, ①各セメントとフロアブルレジンを結合させた場合の剪断強さの比較, ②剪断試験に使用した試験体の破壊界面の観察を行い, 各セメントの結合力について検討を行うこととした.

 材料と方法 : レジンセメントは, MMA系のスーパーボンド (SB) およびコンポジット系のケミエースⅡ (CAⅡ) を使用し, フロアブルレジンは, バルクベースハード (BBH) を用いた. 混和した各セメントをモールドに塡入後, 10, 60秒および600秒でBBHに接触させ, 光照射を行った. その後, 37℃, 15分間静置してセメントが硬化した後, 37℃, 24時間水中浸漬し, 剪断強さの解析およびその破壊界面の観察を行った.

 成績 : SBは, 塡入後10秒の群で600秒の群よりも有意に高い剪断強さを示した一方, CAⅡは各群間で有意差を認めなかった. また, SBとCAⅡの剪断強さを比較した結果, 塡入後10秒のSB群がCAⅡ群に対し有意に高い値を示したが, 塡入後60秒および600秒では両セメント群間に有意差を認めなかった. 破壊界面に関して, SBは, 塡入後10秒および60秒の群でBBHの凝集破壊が90%認められた一方, 塡入後600秒の群でSBとBBHの混合破壊が90%を占めた. CAⅡは, 塡入後10, 60秒および600秒の群で, それぞれBBHの凝集破壊が100, 90%および70%認められた. また, SBおよびCAⅡ自身にはいずれの条件下でも凝集破壊は認められなかった.

 結論 : 未重合のSBは, BBHとの結合においてSB塡入後10秒程度でBBHを接触させることで最も高い結合力が生じ, さらに塡入後60秒でBBHに接触させた場合においても, CAⅡと同等の結合力を発揮することが示唆された. また, SBおよびCAⅡ自身に凝集破壊は認められなかったことより, 両セメントは安定した結合力を有していることが推察された.

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