歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
ラットエブネル腺腺房部細胞の脱顆粒について
上羽 博嗣
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1991 年 54 巻 4 号 p. g23-g24

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抄録

唾液腺における自律神経機構, とくに分泌神経の伝達物質受容体の分布について検討した研究は, 大唾液腺では数多く認められるが, 小唾液腺についてはきわめて少なく, 不明の点が多い. それは, 小唾液腺では唾液の採取がきわめて困難であるために, その組成を調べることが不可能であることによる. そこで, ラットを用いて小唾液腺の一つであるエブネル腺の腺房部細胞における脱顆粒現象を指標として, 小唾液腺腺房部細胞に分布する自律神経受容体の役割を組織学的に検索した. すなわち, 交感神経性および副交感神経性の種々の受容体刺激薬ならびにsubstance Pを1種類単独に, または2種類同時にラットの腹腔内に投与し, その1時間後に, 腺 (5% glutaral-dehydeにより灌流固定) のレジン包埋, toluidine blue染色切片 (厚さ : 1μm) について, 腺房部の総面積に対する分泌顆粒の面積の百分率をコンピューター画像解析装置を用いて算出した. なお, 脱顆粒現象に対する自律神経遮断薬投与の影響 (脱顆粒現象の阻害作用) についても検討した. 得られた結果は, 以下のとおりである. 交感神経性刺激薬については, 脱顆粒現象はα_2刺激薬clonidine, β_1刺激薬dobutamineおよびβ_<1, 2>刺激薬isoproterenolの投与時には認められた. そして, この脱顆粒現象は, α_2遮断薬yohimbine, β_1遮断薬acebutololおよびβ_<1, 2>遮断薬propranololによって阻害された. なお, α_1刺激薬phenylephrineによっては脱顆粒現象は認められなかった. 脱顆粒現象は, M_2副交感神経性刺激薬carbacholによっても起こる. この脱顆粒現象は, M_<1, 2>遮断薬QNBによって阻害されたが, M_1遮断薬pirenzepineによっては阻害されないし, またM_<1, 2>遮断薬atropineによる阻害は完全には起こらなかった. Substance Pによる脱顆粒現象は, substance P遮断薬によって阻害された. また, 最も強い脱顆粒現象が観察されたのは, carbacholおよびsubstance Pの同時投与時である. なお, レジン包埋超薄切片について, 脱顆粒時の微細変動を電顕的に検索すると, α_2, β_1およびβ_<1, 2>交感神経性刺激薬ならびにM_2副交感神経性刺激薬による脱顆粒反応は, すべて同一所見であった. すなわち, 分泌顆粒数の減少, 脱腔側への分泌顆粒の移動および分泌顆粒限界膜と腺腔側膜との融合が観察された. しかし, substance Pでは腺腔側への顆粒の移動は起こらず, 細胞全域にわたる分泌顆粒数の減少が生じていることを, またcarbacholとsubstance Pとの同時投与では分泌顆粒の電子密度の著しい低下, 分泌顆粒の限界膜の消失および分泌顆粒相互の著明な融合現象を認めた. 以上の結果から, ラットエブネル腺腺房部細胞には, α_2およびβ_1の交感神経性受容体, M_2 (M_2β) 副交感神経性受容体ならびにsubstance P受容体が存在することが明らかになった. また, エブネル腺の分泌顆粒の変動様式は大唾液腺とは異なり, 交感神経性刺激でも副交感神経性刺激でもまったく同じであった. Substance P単独投与およびcarbacholとsubstance Pとの同時投与では, 分泌顆粒の消長過程で特異的な電顕像が観察されたがその機序については不明であり, 今後の検討を必要とする.

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© 1991 大阪歯科学会
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