歯科医学
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歯の移動時における神経ペプチドの局在についての免疫組織化学的研究
寺井 裕
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1993 年 56 巻 6 号 p. 486-496

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抄録

 近年、免疫組織化学の飛躍的な進歩により、中枢および末梢での神経伝達(調節)に関与するペプチドの発現についての研究が数多くなされ、生体内で鎮痛に働くとされる enkephalin が注目されている。とくに痛みは、矯正歯科治療の領域においても大きな関心事である。そこで、このペプチドが歯の移動時にどのように発現するかを調べるために本研究を行った。
 体重 200~250 g の雌性 Wistar 系ラットの上顎左側臼歯部を実験側とし Waldo の方法に準じて移動させ、右側を未処置のまま対照側として用いた。観察部位は M1 頬側根の圧迫部および牽引部とした。ゴム挿入 1, 3, 6, 9, 12, 18, 24 時間、2, 7 および 14 日後に約 15 μm の連続横断凍結切片を作製し、蛍光抗体法による染色および HE 染色を行った。1, 6, 9, 18, 24 時間群については、さらに in situ ハイブリダイゼーション(ISH)法を行い観察した。
 対照群では、蛍光抗体法による陽性細胞および ISH 法によるシグナルがともに認められなかった。実験群の 6, 9, 12 時間群で牽引側歯根膜に enkephalin 陽性細胞が認められ、とくに 9 時間群で著明であった。牽引側歯根膜内における encephalin 陽性細胞の局在は歯頸部付近に多く認められ、そのなかでも近心根に比べて遠心の 2 根に多く認められた。圧迫側では、各群を通じて歯根膜内に enkephalin 陽性細胞がほとんど認められなかった。ISH 法による観察では 9, 18 時間群の牽引側歯根膜にハイブリダイゼーションシグナルが認められた。
 歯を移動したときに歯根膜内において、enkephalin 含有細胞の出現が認められ、歯の移動に際して起こる痛みの調節機構に関連している可能性が示唆された。また、その歯根膜内の細胞が enkephalin を産生している可能性も示唆された。

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© 1993 大阪歯科学会
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