神経眼科
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特集
急性脳圧亢進における眼出血機構
花井 香織
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2022 年 39 巻 1 号 p. 18-25

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抄録

 急激な脳圧亢進に伴い眼内出血が生じることは古くから知られている.しかしながら,その機序に関わる臨床的研究はほとんどなされておらず不明な点が多い.本稿の前半では急性脳圧亢進の病態とその疾患群の特徴及び実際に硝子体出血(vitreous hemorrhage:VH)を来した症例を提示し,解説した.脳圧亢進による眼内出血の原因としては,網膜中心静脈圧亢進が最も有力な説とされている.これは,網膜中心静脈が視神経周囲くも膜下腔を通過する部位において,髄液圧上昇が網膜中心静脈への圧迫を来たし,静脈圧上昇を引き起こすものと考えられる.また篩状板を介した眼圧-脳圧の圧較差(translaminar pressure difference)の勾配もうっ血乳頭の発症メカニズム,さらには眼内出血に深く関与している.後半では急性脳圧亢進における眼内出血の代表的疾患であるTerson症候群(Terson syndrome:TS)について,その発生メカニズムを中心に解説した.TSの発症機序については諸説があり一定の見解は得られていないが,最も有力な説はくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)による急激な脳圧亢進により網膜中心静脈圧が上昇,網膜の毛細血管が破綻し内境界膜下出血やVHを来す説である.他には視神経周囲くも膜下腔に流入したSAHが眼内に直接流入するという説がある.また,近年TSでは後部硝子体皮質前ポケットに出血が存在しないことがわかり,TSにおける眼内出血発症機序を解明する新たな知見の一つと考える.

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© 2022 日本神経眼科学会
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