緑内障性視神経症,特に正常眼圧緑内障の発症機序・原因について,諸説あり結論がでていない.その有力な仮説の一つとして,篩状板部での脳脊髄液圧(頭蓋内圧)と眼圧の圧較差が正常眼圧緑内障の発症の要因となると言われている.ほとんどの臨床研究が正常眼圧緑内障では低脳脊髄液圧であることを示唆しているが,そうではないとする報告もある.しかしながら,どちらの臨床研究も少数を対象としたものであり,また,プロトコールも統一されていない.したがって,非侵襲性の脳脊髄液圧測定方法の開発による大規模な臨床研究を行い,より詳細に検討すべきである.
脳脊髄液圧の低下による緑内障の発症機序は,これまでの動物実験の結果から,1)篩状板部での脳脊髄液圧と眼圧の圧較差が篩状板の変形により物理的に軸索流が停滞する,2)低い脳脊髄液圧が直接的に軸索流を停滞させる,3)篩状板後部の脳脊髄液からの排泄機構(glymphatic system)の破綻などが推測される.実験動物として一般的なげっ歯類では篩状板構造が未熟であるものの,急性低脳脊髄液圧モデルでも一定の網膜神経節軸索の変性や細胞死を観察された.今後は,これら動物モデルにより低脳脊髄液圧による軸索変性の分子機序の解析や慢性低脳脊髄液圧モデルなどの開発が必要である.
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