抄録
症例は62歳,男性.ATP静注で停止するHR190bpmの上室性頻拍に対して,カテーテルアブレーションを行った.高位右房,冠静脈洞,ヒス束,右室に電極カテーテルを留置し,誘発を行ったところ心房シーケンスの異なる2つのregular narrow QRS tachycardiaが誘発され(PSVT1およびPSVT2),途中で互いに移り変わるのが確認された.心房の最早期興奮部位はそれぞれ僧帽弁輪5時方向とヒス束領域であった.PSVT1は心房リセット現象を示したため,左副伝導路を介する正方向性房室回帰性頻拍(AVRT)と判断した.
経中隔的に僧帽弁輪をマッピングし,心室ペーシング中に僧帽弁輪の左副伝導路を焼灼した.その後もPSVT2が誘発された.心房リセット現象を認め,心室早期刺激では室房伝導の減衰を認めず,para-Hisian pacingでは副伝導路パターンを示した.頻拍中に右房をマッピングしたところ,三尖弁輪0時方向が心房最早期興奮部位であった.頻拍中に同部位に通電したところ頻拍は停止し,以後は誘発されなくなった.通電後は室房伝導が消失した.左側副伝導路と右側副伝導路を合併し,2種類の正方向性AVRTを認めた珍しい症例を経験したので報告する.