抄録
33歳, 女性. 38°Cの発熱を認めたが翌日解熱し, 1週間後38.8°Cの発熱, 嘔吐, 心窩部痛を認め某総合病院受診した. 炎症反応, 心筋逸脱酵素の上昇を認め, 心電図上広範なST上昇, 心臓超音波検査では左室壁運動のびまん性低下, 心筋浮腫を認め急性心筋炎と診断され緊急入院となった. 入院翌日ショック, 完全房室ブロックを認め, 大動脈内バルーンパンピング (IABP), 経皮的心肺補助装置 (PCPS) を挿入された. 前医では心機能改善に乏しく救命困難と判断され, 第6病日に補助人工心臓導入を含めた集学的管理目的に当院転院となった. 転院時, 心筋逸脱酵素の早期ピークアウト, 心電図上QRS幅の減少を認めており, 心機能回復の予兆ととらえ, 補助人工心臓導入の準備はしつつも慎重に経過観察する方針とした. 以降, 経時的に左室壁運動の改善を認め, 順次PCPS, IABP, 人工呼吸器を離脱し退院となった. 劇症型心筋炎に対するBridge to Recovery目的の補助人工心臓導入に関して確立した基準はなく, 慎重な判断が重要である. 本症例は心筋逸脱酵素の早期ピークアウト, 心電図上QRS幅の改善を根拠に保存的に救命し得たため, 補助人工心臓の適否を判断するうえで示唆に富む症例と考えられた.