2018 年 50 巻 1 号 p. 75-82
症例は1歳1カ月の男児.38週0日,2916 g,他院で出生した.日齢1より多呼吸を認め,加療されるも改善しないため,日齢7に精査加療目的で当院へ新生児搬送された.心エコー検査および胸部造影CT検査で上心臓型総肺静脈還流異常(Ⅰa型)と診断し,日齢30に心内修復術を施行され,術後23日に合併症なく退院した.1歳1カ月時に術後評価の心臓カテーテル検査を行い,肺静脈吻合部狭窄および肺高血圧症は認めず,術後経過は良好と判断した.しかし,主肺動脈造影の静脈相で肺静脈から奇静脈を経由し上大静脈への造影剤の異常流入を認めた.選択的奇静脈逆行造影を施行したところ,術前に認めなかった新たな垂直静脈の形成を確認した.現時点では有意な短絡とはいえず治療適応はないと判断したが,将来的に血管成長に伴う短絡血流増加の可能性がある.術前の画像検査を後方視的に再評価しても同垂直静脈は確認できず,画像検査に映らないほどの極小の垂直静脈があった可能性や,新たに血管増生した可能性が考えられた.自験例は稀な臨床経過であり,本症に対する術前検査,術式や術後評価の方法において示唆に富む症例と考えられた.