心臓
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[症例]
甲状腺中毒症合併の急性冠症候群患者に対してヨード造影剤を使用し甲状腺クリーゼなく治療し得た1例
綾井 健太松永 圭司蓮井 雄介石川 昇平萬谷 薫三宅 祐一石澤 真石川 かおり辻 哲平村上 和司野間 貴久南野 哲男
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2019 年 51 巻 4 号 p. 453-457

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抄録

 甲状腺中毒症患者に対するヨード造影剤の使用は,致死的疾患である甲状腺クリーゼ発症のリスクがあり禁忌とされている.しかし,同様に致死的疾患である急性冠症候群(ACS)の診断・治療のためにはヨード造影剤を使用した冠動脈造影が必須であり,両疾患を合併した症例でのヨード造影剤使用は総合的な判断が求められる.今回,甲状腺中毒症合併のACS患者に対して経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行し,ヨード造影剤を用いたが甲状腺クリーゼの発症を認めず治療し得た1例を経験したため報告する.

 症例は70歳代男性.労作時の胸部不快感が増悪し安静時にも改善しないため当院を受診した.心電図では広範なST低下とトロポニンT陽性を認め,高リスクの非ST上昇型ACS(NSTE-ACS)と診断した.身体所見・検査所見で甲状腺中毒症の合併を認め,ヨード造影剤使用による甲状腺クリーゼ発症のリスクが考えられたが,内分泌専門医と討論し,患者の同意を得た後,冠動脈造影を実施した.右冠動脈近位部に有意狭窄を認め,同部位にPCIを実施し成功した.その後,甲状腺中毒症に関連する数日間の嘔気と1週間程度続く38℃の熱発に対して対症療法を実施し,甲状腺クリーゼをきたすことなく術後1カ月で退院した.

 高リスクのNSTE-ACSでは保存的加療と比べて早期侵襲的治療戦略の有用性が示唆されている.甲状腺中毒症を合併する場合でも内分泌専門医と連携の上でのヨード造影剤を使用したPCIは有用な選択肢と考えられる.

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© 2019 公益財団法人 日本心臓財団
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