2020 年 52 巻 12 号 p. 1421-1426
症例は40歳代の女性.突然の前胸部痛にて救急搬送となった.胸痛精査のため,冠動脈造影検査を施行.当初,冠動脈は正常と思われ,左室造影で左室心尖部を中心として壁運動障害を認め,たこつぼ心筋症に典型的な身体的精神的ストレスのエピソードもなく,尿中薬物検査にて覚醒剤が陽性であったことから,覚醒剤によるたこつぼ心筋症を疑った.再度,退院前に冠動脈造影を施行したところ,入院時に同定できなかった有意狭窄病変のない左前下行枝が描出された.心筋シンチ所見でも左前下行枝領域に一致した灌流欠損を認めたことから,本例はたこつぼ心筋症ではなく覚醒剤による急性前壁心筋梗塞と診断した.本人に確認したところ,胸痛発作の前に覚醒剤を静脈注射したことを認めた.本例は,本邦では稀有な覚醒剤使用後の心筋梗塞症例で,冠動脈造影判読の重要性をことさら認識した症例であったため報告する.