2021 年 53 巻 1 号 p. 54-60
症例は86歳男性.認知症のため,ベッド上での生活を送っていた.突然の右下肢の発赤腫脹を認め,当院を受診した.D-dimer 6.5 μg/mLで深部静脈血栓症を疑い,胸腹部造影CTを施行したところ,下大静脈の重複血管と右総腸骨静脈~大腿静脈と右肺動脈に血栓を認めた.右側下大静脈は低発達のため検討の結果,左側下大静脈にフィルターを留置した.同時に抗凝固療法も開始をした.右下肢の浮腫は入院翌日には消失,D-dimerも徐々に正常化した.1カ月後に下大静脈フィルターは抜去した.血栓症の原因としては胸水を認めたことから悪性腫瘍を考えたが,胸水,気管支鏡検査でも悪性の所見は認めなかった.また,凝固線溶系の先天的異常もなかった.認知症で長期臥床が続いたこと,重複下大静脈により下大静脈の合流部が右総腸骨動脈と椎骨により圧迫され,静脈のうっ滞が生じた可能性も考えられた.