2021 年 53 巻 5 号 p. 505-513
60歳代男性.インスリン治療中の患者.下痢症状改善後に全身倦怠感を主訴に近医を受診した.高血糖を指摘され当院救急外来へ紹介受診となり,心電図にて下壁誘導にST上昇を認め,緊急の冠動脈造影検査を行った.左回旋枝(LCx)#11の完全閉塞,左前下行枝(LAD)#6-7に90%狭窄を認め,大動脈バルーンパンピング(IABP)を挿入しLCx#11に対しPCIを行い,LAD病変は待機的に第4病日にPCIを行った.ヘパリンは初日から第4病日まで継続投与した.血小板は比較的急激に低下を示し第4病日には半分以下となったが血栓塞栓症状はなく,その後血小板は増加に転じた.しかしながら,第9病日にLCx,LADの両方にステント血栓症を同時に発症した.救命措置として経皮的心肺補助装置(PCPS),IABPなどを挿入し状態の安定を得たが,再度ヘパリンを持続投与したところ,急激な血小板低下を認めたため,この時点でヘパリン起因性血小板減少症(HIT)を疑った.HIT抗体検査で陽性であったため,抗凝固薬はアルガトロバン持続投与に変更したところ,速やかに血小板数は回復し,その後ワルファリン内服へと変更した.今回,我々は,早期ステント血栓症の原因として,稀な発症様式のHITの関与が疑われた症例を経験したので報告する.