2021 年 53 巻 7 号 p. 699-703
症例は43歳男性で,胸痛を主訴に来院した.高血圧と脂質異常症の既往を有し,冠動脈CT検査と冠動脈造影で左主幹部(LMT)に紡錘状の冠動脈瘤を認めたが,客観的心筋虚血は証明されなかった.経時的なCTフォローでLMT冠動脈瘤のサイズに進展はなかったが,負荷心筋シンチグラムで陽性の前下行枝狭窄病変を認め,手術適応となった.人工心肺下に瘤切除を行い,拡張した自己冠動脈サイズに合わせて,橈骨動脈のフリーグラフトで前下行枝と鈍角枝を個別に血行再建した.明らかな川崎病の既往はなかったが,LMT冠動脈瘤壁の病理学的検査は,LMT冠動脈の血管炎および二次性アテローム性動脈硬化症を示し,他の身体所見を考慮すると川崎病を見逃した可能性が疑われた.LMT冠動脈瘤は破裂や血栓塞栓症による心筋虚血を引き起こす可能性がある非常に稀な疾患である.LMT冠動脈瘤の外科的治療は症例報告レベルで,確立された治療方法はいまだない.今回我々は病理学的検査で川崎病の関与を強く疑わせたLMT冠動脈瘤と冠動脈硬化病変に外科的血行再建を施行し良好な経過であったので報告する.