2021 年 53 巻 8 号 p. 847-852
症例は76歳男性.安定狭心症の経過観察中,胸部X線写真で右肺門,縦隔リンパ節腫大を指摘された.精査目的で当院を紹介受診し,気管支洗浄,経気管支肺生検およびリンパ節生検が行われたが有意な所見は認めず経過観察となった.約6カ月後にめまい,眼前暗黒感が出現し,ホルター心電図で8.8秒の洞停止を認めたため,恒久的ペースメーカの植込みを行った.同時期のFDG-PET CT検査で,右房,肺門部,左鼠径リンパ節にFDGの集積を認め,経食道心臓超音波検査では,心房中隔から上大静脈へ連続する充実性の腫瘤がみられた.左鼠径リンパ節の生検では,Grade 3aの濾胞性リンパ腫の像が得られた.臨床的に洞不全症候群はリンパ腫の心臓浸潤によるものと考えられた.リツキシマブによる化学療法を施行し,治療半年後の経食道心臓超音波検査,FDG-PET CT検査では心臓の腫瘍性病変は消失し,化学療法前と比較し心房ペーシング率が低下した.リンパ腫の心臓浸潤による洞不全症候群では,腫瘍の縮小により洞機能の改善が得られる可能性があることが示唆された.