2023 年 55 巻 8 号 p. 836-842
背景・目的:入浴は家庭よりも共同浴場のほうが安全なのかを検討した.
方法:①入浴中急死件数ならびに住民の入浴頻度を,家庭と共同浴場に分けて横断的調査を行った.総入浴中急死件数に占める各施設の比率(各施設のA1)と総入浴回数に占める各施設の比率(各施設のB1)を調べた.これから入浴回数あたりの入浴中急死件数の指数(入浴中急死リスク値:A1/B1)を各施設で求めた.②全国人口動態統計から総浴槽内溺死件数に占める商業等施設の比率(A2)を調べた.③山口市民が家庭と共同浴場のどちらでより温まるかを調べた.
結果:①入浴中急死件数の施設別比率は家庭90.9%(421件),共同浴場8.9%(41件),老人ホーム0.2%(1件)であった.入浴回数の施設別比率は家庭97.2%,共同浴場2.8%であった.入浴中急死リスク値は家庭0.935,共同浴場3.1になった.入浴回数あたりの入浴中急死件数は共同浴場が家庭の3.3倍多かった.②A2は5.9%であった.これは商業等施設の一般的な利用頻度よりもかなり高いと考えられた.入浴回数あたりの浴槽内溺死件数は家庭よりも商業等施設が多いことが示された.③入浴は家庭よりも共同浴場のほうが温まると答えた人は約9割で,共同浴場では熱中症による入浴事故が多くなると推測された.
結論:入浴回数あたりの入浴中急死件数は家庭よりも共同浴場のほうが多かった.入浴中の熱中症事故が共同浴場で増加するためと考えられた.