目的:当院における高齢心不全患者の入院関連機能障害(Hospitalization-Associated Disability:HAD)有病率を明らかにすること,高齢心不全患者をHADの有無で比較検討し,高齢心不全患者のHADの特徴を明らかにすること,ならびにHADを予測する因子について検討することとした.
方法:単一施設における後方視的観察研究を実施した.2020年10月から2021年9月に当院へ入院した65歳以上の心不全患者154名を対象とした.HAD有病率について,Barthel Index(BI)≧95,60≦BI<95,BI<60の3群に分け比較した.また,入院前BIにおいて歩行項目が5点以下を除外した112名を対象に,入院前BIと比較して退院時BIが5点以上低下した者をHAD,それ以外をnon-HADと定義し,2群間で比較検討した.
結果:65歳以上の急性心不全患者154名のうち(データ欠損2名を除く),75名(49.3%)にHADを認めた.BI≧95:27名(45.8%),60≦BI<95:33名(62.3%),BI<60:15名(37.5%)にHADを認めた.2群間の比較について,解析対象98名のうち,HAD群48名(女性:28名,年齢85.6±7.7歳),non-HAD群50名(女性:22名,年齢80.7±7.5歳)であった.2群間において,年齢,介護保険利用の有無,高血圧の有無,運動機能,認知機能,握力,立位・歩行開始までの期間,退院時BI,退院時歩行BI,在院日数,自宅復帰率で有意差を認めた.さらに,HADの有無を従属変数に多変量ロジスティック回帰分析を実施し,年齢(オッズ比:1.09,95%信頼区間:1.00-1.17,p値:0.04)と歩行開始までの期間(オッズ比:1.25,95%信頼区間:1.01-1.54,p値:0.04)がHADを予測する因子として抽出された.
考察:高齢心不全患者では高率でHADを生じ,HADには年齢および歩行開始までの期間が関与していることが示唆された.
背景・目的:入浴は家庭よりも共同浴場のほうが安全なのかを検討した.
方法:①入浴中急死件数ならびに住民の入浴頻度を,家庭と共同浴場に分けて横断的調査を行った.総入浴中急死件数に占める各施設の比率(各施設のA1)と総入浴回数に占める各施設の比率(各施設のB1)を調べた.これから入浴回数あたりの入浴中急死件数の指数(入浴中急死リスク値:A1/B1)を各施設で求めた.②全国人口動態統計から総浴槽内溺死件数に占める商業等施設の比率(A2)を調べた.③山口市民が家庭と共同浴場のどちらでより温まるかを調べた.
結果:①入浴中急死件数の施設別比率は家庭90.9%(421件),共同浴場8.9%(41件),老人ホーム0.2%(1件)であった.入浴回数の施設別比率は家庭97.2%,共同浴場2.8%であった.入浴中急死リスク値は家庭0.935,共同浴場3.1になった.入浴回数あたりの入浴中急死件数は共同浴場が家庭の3.3倍多かった.②A2は5.9%であった.これは商業等施設の一般的な利用頻度よりもかなり高いと考えられた.入浴回数あたりの浴槽内溺死件数は家庭よりも商業等施設が多いことが示された.③入浴は家庭よりも共同浴場のほうが温まると答えた人は約9割で,共同浴場では熱中症による入浴事故が多くなると推測された.
結論:入浴回数あたりの入浴中急死件数は家庭よりも共同浴場のほうが多かった.入浴中の熱中症事故が共同浴場で増加するためと考えられた.
心筋ブリッジは本来心外膜組織を走行する冠動脈の一部が心筋内に埋没している病態で,一般には予後良好とされているが,稀に心筋梗塞や致死性不整脈の要因となることがある.今回,心筋梗塞や致死性不整脈への関与が疑われた心筋ブリッジに対して冠動脈ステントを留置し,それを冠動脈CTで評価し,良好な経過を得た2症例を経験したので報告する.
症例1は50歳代,男性.急性下壁心筋梗塞の診断で,右冠動脈の責任病変に冠動脈インターベンション(PCI)を行った.術中,昇圧目的にカテコラミンを開始したところ心室細動を認めた.PCIが成功した後,冠動脈造影所見を再評価すると,カテコラミン投与開始後より左前下行枝中間部の心筋ブリッジが過収縮となっていたことが判明した.心筋ブリッジの過収縮が心筋虚血を増悪させ,ひいては心室細動出現の誘因となった可能性が残されるため,患者の同意のもと,心筋ブリッジにステントを留置した.その後,胸部症状および心室細動は認めていない.
症例2は80歳代,女性.急性前壁梗塞の診断で緊急冠動脈造影を施行した.結果,冠動脈に器質的狭窄および閉塞病変はなく,左前下行枝中間部に心筋ブリッジを認めるのみであった.来院時の心電図,心エコー所見より,同部が責任病変であると判断し,心筋ブリッジにステントを留置した.後日実施した心筋シンチにおいて,この判断を支持する所見が得られた.
症例は50歳代女性で意識消失のため2013年に当科紹介となり,完全房室ブロックと診断され恒久的ペースメーカ留置となった.比較的若年の完全房室ブロック症例であり心臓サルコイドーシスの可能性も検討されたが,左室壁運動異常はなく,血清ACE活性は正常で67Ga-citrateシンチグラフィも陰性であったため心臓サルコイドーシスは積極的に疑われず,当科へは年1回ペースメーカ外来の通院となった.2019年に労作時息切れを訴えたため精査を行い,肺門リンパ節腫脹と下後壁に菲薄化を伴う壁運動異常がみられたため,18F-FDG PETを撮像すると左室壁に沿ってFDGの不均一な強い集積増加がみられ心臓サルコイドーシスと診断した.ステロイド投与を行い半年後の18F-FDG PETで異常集積部位の著明な改善が得られた.心臓サルコイドーシスは早期診断と治療が重要であり,その診断においてかつては心内膜心筋生検が必須であった.しかし組織診断率は約20%程度と極めて低く,診断に至らなかった症例が多くあることと画像診断技術の進歩により18F-FDG PETの心臓への異常集積が診断指針の主徴候に加えられた.このため本症例では過去に診断に至ることができなかった心臓サルコイドーシスを診断することができ,さらにはステロイド投与後の治療効果判定にも有用であることが示唆された.