抄録
下壁側壁梗塞に合併し,手術により救命し得た仮性心室瘤の1例を,本邦17例の文献的考察を加えて報告する.症例:52歳,男.咳嗽,動悸,息切れを主訴として入院.入院時,心拍数112/分の頻拍,および両肺に湿性ラ音を聴取.胸部X線写真上心胸郭比70%の心拡大を,また,心電図II,III,aVF,V6に異常q 波, I, II, III, aVL , aVF, V4, V5, V6に陰性T波を認め,下壁側壁梗塞に伴う,うっ血性心不全あるいは心筋梗塞後症候群に伴う,心嚢液貯留が疑われたが,断層心エコー図にて左室後側壁下方に収縮期に拡大する巨大な円形のエコーフリースペースがあり,心筋梗塞に合併した仮性心室瘤が強く疑われた.左室造影にて,左室腔と交通した左室腔とは別の腔が証明され,また冠状動脈造影上,左回旋枝本幹に完全閉塞を認め,下壁側壁梗塞に合併した仮性心室瘤と診断し,入院後早期に,瘤切除,破裂口閉鎖術を施行した.切除された瘤壁は,心筋組織および心外膜成分を含まず,組織学的に仮性心室瘤と診断された. 術後経過は順調で, 現在, 社会復帰している.なお,本邦における仮性心室瘤18例のうち,非手術例は殆ど死亡しているのに対し,手術例の予後は良く,特に近年は,心エコー法,心臓核医学検査等の非観血的検査により生前診断がなされ,手術により救命される例が増加している.