抄録
乳頭筋の引き寄せ効果となり得る所見を得たため報告する.全腱索乳頭筋を温存する僧帽弁置換術を行った17例(温存群)と温存しない通常の術式を行った30例(非温存群)をMモード心エコー図大動脈弁像から得た左室駆出パターンで比較した.温存群は健康成人と同様に駆出早期のデルタ型部分を維持し,非温存群はこれを失った.カテーテル先端型マノメーターおよびパルスドプラで測定した左室駆出開始期はデルタ型部分の始まりとほぼ一致し,同部がアーチファクトではないことが示唆された.デルタ型部分の終了点であるAノッチの時点での左室局所収縮率は,乳頭筋付着部とその近辺のみが収縮しており,同部の形成に乳頭筋の引き寄せ効果が関与することが示された.温存群では,大動脈弁の閉鎖点が遅いことも加わってより小さなPEP/ET比を示し,優れた心係数と左室駆出率が得られた心臓カテーテル所見を支持する結果であった.
以上から,上記デルタ型部分は乳頭筋の引き寄せ効果の反映であることが示唆された.